安全運転管理者のアルコールチェック義務化とは|対象やポイントも解説
2022年4月に道路交通法施行規則が改正され、安全運転管理者に対し、運転者のアルコールチェックを行い記録を保存することが義務付けられました。また、2023年12月からはアルコールチェッカーの使用も義務付けられました。
そのような中、
- 安全運転管理者の業務がどう変わったか具体的に把握できていない
- 安全運転管理者が不在時のアルコールチェックをどうすればいいのかわからない
- 実際にアルコールチェックを行う中で判断に迷うケースに直面した
など、対応を始めたばかりの方で、疑問や悩みを抱えている方も多いと思います。
そこで本記事では、法改正により安全運転管理者に追加された「業務内容」や「アルコールチェックの実施方法」、怠った場合の「罰則」などについてわかりやすく解説します。アルコールチェックに関するFAQも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
5分でわかる!アルコールチェック義務化ガイド
安全運転管理者が対応すべきポイントも一目瞭然
2022年4月の法改正により、安全運転管理者の業務内容にアルコールチェックが加わりました。とはいえ、結局何をすればいいの?という疑問を解決する資料をご用意しました。
【資料でわかること】
- アルコールチェック義務化の背景と施行されたスケジュール
- 義務化の対象となる事業所の条件
- 法改正で何が変わったのか
- 具体的にやるべきことは何か
- アルコールチェックを怠った場合の罰則はあるのか
この一冊に、アルコールチェック義務化への対応に必要な情報がまとまっています。ぜひ、貴社の取り組みの際にお役立てください。
アルコール検知器を用いたアルコールチェックが2023年12月1日から義務化されました。義務化に至った詳細についてはこちらの記事をご確認ください。
【速報】アルコールチェック義務化開始!警察庁発表をわかりやすく解説!
安全運転管理者の業務にアルコールチェックが追加された
2022年4月の道路交通法施行規則改正により、安全運転管理者に対し、目視等により運転者のアルコールチェックを実施し、記録を1年間保存することが義務付けられました。
さらに、2023年12月からはアルコールチェックの際にアルコールチェッカー(アルコール検知器)を使用すること、およびアルコールチェッカーを常時有効に保持することも義務付けられました。
これにより、安全運転管理者を設置している企業や事業所では、運転者に対し、運転前後にアルコールチェッカーを用いたアルコールチェックを行わなければならなくなりました。
アルコールチェック義務化について復習したい方に向けて、わかりやすく解説した『5分でわかる!アルコールチェック義務化のすべて』をご用意しました。ぜひご覧ください。
また、「自社がアルコールチェック義務化の対応をしっかりできているか不安…」といった方は、『弁護士監修|法令遵守チェックリスト(アルコールチェック義務化編)』をぜひご活用ください。
安全運転管理者の業務内容はどう変わったのか
法改正により、具体的にどのような業務が追加されたのか見ていきましょう。
従来の業務内容
法改正以前の安全運転管理者の業務内容は、以下の7つでした。
- 運転者の状況把握
運転者の適性や技能、知識及び法令や処分の遵守状況を把握するための措置を講じます。
- 運行計画の作成
最高速度違反や過積載運転、放置駐車違反行為や過労運転の防止など、安全運転の確保に留意して、自動車の運行計画を作成します。
- 交替要員の配置
運転者が長距離運転や夜間運転を行う場合、疲労などで安全な運転ができなくなる可能性があるときは、事前に交代ドライバーを準備します。
- 異常気象時等の安全確保の措置
異常な天候や自然災害などで、安全な運転が困難になる可能性があるときは、適切な指示を出し、安全な運転を確保するための措置を取ります。
- 安全運転の指示
運転者に対して点呼を行い、自動車の点検の実施状況や、病気や過労などで運転ができない可能性があるかどうかを確認し、安全な運転を確保するために必要な指示を与えます。例えば、適切な休息や運転方法のアドバイスなどを行い、安全性を高めます。
- 運転日誌の記録
運転者には運転日誌を備え付けてもらいます。運転者名や運転の開始と終了の日時、運転距離などの必要な情報を記録することによって、運転状況の把握や適切な記録管理が行えます。
- 運転者に対する指導
自動車の運転に関する技術や知識など、安全な運転を確保するために必要な事項について、運転者への教育を行います。適切な運転方法、交通規則の遵守、事故防止などについて教育し、安全な運転を推進します。
追加された業務内容
法改正により以下の2つの業務が追加され、安全運転管理者の業務内容は全部で9つとなりました。
- 運転前後の酒気帯び確認
運転をする前や終了後の運転者に対して、酒気帯びがあるかどうかを目視等で確認するほか、アルコールチェッカーを用いて確認します。運転者の状態を確認することで、酒気帯び運転を防止し、安全な運転環境を確保します。
- 酒気帯び確認の記録・保存
酒気帯びの確認結果を記録し、その記録を1年間保存することで、適切な管理と監査が可能となります。また、アルコールチェッカーを常時有効に保持し、いつでも正確に測定できる環境を整備します。
道路交通法施行規則の改正について詳細を知りたい方は、以下の内閣府令をご覧ください。
なお、内閣府令にはアルコールチェッカーに関する規定は2022年10月から施行するとの記載がありますが、アルコールチェッカーの供給不足等により一時延期となり、最終的に2023年12月から施行されました。詳しくは後ほど解説します。
そもそも、安全運転管理者制度とは
そもそも、安全運転管理者制度は、一定台数以上の自動車を使う企業や事業所が、安全な運転環境を確保することを目的として導入されました。
社用車や運送車両の運転の管理・監督を担当する「安全運転管理者」および「副安全運転管理者」を選任し、安全運転の推進や事故の防止に取り組むことを目的としています。
安全運転管理者等は、運転者の教育・訓練や運転状況のモニタリング、安全対策の策定・実施などを担当します。
安全運転管理者の全体像について、『安全運転管理者まるわかりガイド』にイラスト付きでわかりやすくまとめています。ぜひご覧ください。
選任義務の対象
選任義務の対象となるのは、以下のいずれかに該当する企業や事業所です。
- 乗車定員が11人以上の自家用自動車を1台以上使用している
- 5台以上の自家用自動車を使用している
(原動機付自転車を除く自動二輪は1台につき自動車0.5台として計算)
これらの企業や事業所では選任が必要とされており、少なくとも1人以上の安全運転管理者を選任しなければなりません。
ただし、運送業で配置が義務付けられている「運行管理者」を選任している場合は対象外となります。
安全運転管理者と運行管理者の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。それぞれの選任義務の対象となる基準や、管理者の業務内容、違反行為に対する罰則について分かりやすく説明していますので、ぜひご覧ください。
参考記事:安全運転管理者と運行管理者の違いを解説!必要な資格や罰則も紹介
企業によっては副安全運転管理者の選任も必要
20台以上の自動車を使用している場合には、安全運転管理者に加えて、副安全運転管理者の選任も必要です。
副安全運転管理者は、主に安全運転管理者の補佐や代行を担います。
使用する自動車台数が多い場合、安全運転管理者だけでは確実に業務を遂行するのが難しくなります。それをサポートし、安全運転を確保する環境を整えるために、副安全運転管理者は必要になるのです。
安全運転管理者は使用する台数によって選任する人数は異なりませんが、副安全運転管理者は20台増えるごとに1人加算しなければならないため、注意が必要です。
社用車管理者が押さえておくべきポイントを『所有台数別でやるべきことが違う!?社用車管理完璧マニュアル』にて紹介しています。ぜひご覧ください。
資格要件
安全運転管理者、副安全運転管理者になるための資格要件を紹介します。
安全運転管理者の資格要件
安全運転管理者は、以下の資格要件を満たす必要があります。
- 年齢:20歳以上
(副安全運転管理者が置かれている場合は30歳以上)
- 運転管理実務経験:運転管理の実務経験が2年以上必要
副安全運転管理者の資格要件
副安全運転管理者は、以下の資格要件を満たす必要があります。
- 年齢:20歳以上
- 運転管理経験または運転経験:1年以上の運転管理の実務経験または3年以上の運転経験
他にも、公安委員会に上記と同等の能力があると認められた場合には、安全運転管理者や副安全運転管理者になることができます。
ただし、過去2年以内に公安委員会から解任命令を受けた者、酒酔い運転や無免許運転などの違反をした者は安全運転管理者等になれないため注意が必要です。
これらの選任基準に基づいて設置された安全運転管理者や副安全運転管理者が、運転者に対してアルコールチェックを実施することになります。
届出義務
安全運転管理者を選任した時は、選任した日から15日以内に自動車使用の本拠地を管轄する警察署を経由して、公安委員会に速やかに届け出なければなりません。選任の届出については、道路交通法第74条の3第5項で定められています。
なお、安全運転管理者制度については、以下の記事で詳しく解説しています。選任・届出方法や違反行為に対する罰則についても分かりやすく紹介していますので、ぜひご覧ください。
改めて知りたい、アルコールチェック義務化とは
ここまで、安全運転管理者制度におけるアルコールチェック業務の追加について解説してきました。
この改正により、安全運転管理者を設置している企業や事業所では運転者に対するアルコールチェックを行わなければならなくなりました。これらは一般的に「アルコールチェック義務化」と呼ばれています。
ここで、アルコールチェック義務化の内容やスケジュール等を改めて確認しておきましょう。
なお、アルコールチェック義務化についてわかりやすくまとめた資料もありますので、合わせてご活用ください。
資料ダウンロード:5分でわかる!アルコールチェック義務化のすべて
なぜ義務化されたのか
今回アルコールチェック義務化の対象となったのは、一定台数以上の「白ナンバー」の自動車を使用する企業や事業所です。
事業用である緑ナンバーの自動車に対しては、以前からアルコールチェックが義務付けられていましたが、なぜ白ナンバーに対しても義務化されることになったのでしょうか。
これには、2021年6月に千葉県八街市で起きた飲酒運転のトラックによる交通事故が大きく影響しています。
事故の概要
2021年6月28日、千葉県八街市で、飲酒運転のトラックが下校中の小学生の列に突っ込み児童5人が死傷しました。事故後、運転者の呼気から基準値を上回るアルコールが検出されましたが、運転者が乗っていたのは当時アルコールチェックが義務付けられていなかった白ナンバーのトラックでした。
この事故を受けて道路交通法施行規則が改正され、白ナンバーに対する飲酒運転防止対策の強化を目的として、アルコールチェックの実施および記録・保存が義務化されたのです。また、企業の安全運転文化の醸成を担う安全運転管理者の重要性も見直され、罰則の追加や罰金の引き上げが行われました。
これまでも飲酒運転による事故が起きる度に道路交通法が改正されてきましたが、なかなか飲酒運転がなくならないため、この事故をきっかけにさらに法制化や厳罰化が進められました。
義務化の内容とスケジュール
アルコールチェック義務化は、2022年4月と2023年12月の二段階に分けて施行されました。それぞれの内容とスケジュールを改めて確認しておきましょう。
2022年4月1日から義務化された内容 (第一段階)
飲酒運転による交通事故を今まで以上に厳格に防止するために、まずは運転前と運転後の計2回、ドライバーに対してアルコールチェックを実施し、その記録を管理することが義務化されました。
ただし、第一段階では、アルコールチェックの際にアルコールチェッカーを用いることまでは義務化されず、「目視等」で実施すればよいとされていました。
2022年4月1日から義務化された内容は、具体的には以下の通りです。
- 運転前後の運転者の状態を目視等で確認することにより、運転者の酒気帯びの有無の確認をすること
- 酒気帯びの有無について記録し、記録を1年間保存すること
(道路交通法施行規則第9条の10)
2023年12月1日から義務化された内容 (第二段階)
第二段階では、さらに厳格なアルコールチェックの実施が必要となりました。第一段階では「目視等」での実施に留められていましたが、第二段階では「アルコールチェッカー」を用いたアルコールチェックが義務付けられました。
また、アルコールチェッカーは定期的に点検を行い、いつでも正確に測定できる状態にしておくことも義務化の内容に含まれています。
アルコールチェッカーの使用について、当初は2022年10月1日から義務化される予定でしたが、アルコールチェッカーの供給不足等を踏まえて延期となっていました。
(参照:警察庁の発表文書)
その後、安全運転管理者へのアンケートやアルコールチェッカー製造業界からの意見等により、アルコールチェッカーの供給状況が改善傾向にあると認められ、飲酒運転防止を図るためには早期にアルコールチェッカーを導入することが望ましいとの見方から、2023年12月1日の施行が決定しました。
2023年12月1日から義務化された内容は、具体的には以下の通りです。
- 運転者の酒気帯びの有無の確認を、国家公安委員会が定めるアルコールチェッカーを用いておこなうこと
- アルコールチェッカーを常時有効に保持すること
(道路交通法施行規則第9条の10)
なお、国家公安委員会が定めるアルコールチェッカーとは、「呼気中のアルコールを検知し、その有無 又はその濃度を警告音、警告灯、数値等により示す機能を有する機器」を指しており、これを満たしたアルコールチェッカーであれば問題なく使用できます。
二段階にわたるアルコールチェック義務化の内容を図でまとめると以下の通りです。
なお、アルコールチェック義務化については、以下の記事で詳しく解説しています。こちらも合わせてご覧ください。
アルコールチェッカーの選び方
アルコールチェックを始めるためには、まずアルコールチェッカーを準備しなければなりません。しかしながら、市販されている膨大な数のアルコールチェッカーの中からどれを選べばよいのかわからないという方も多いかと思います。
ここでは、アルコールチェッカーを選ぶ際にポイントとなる3つの観点をお伝えします。
①タイプ(形状)で選ぶ
アルコールチェッカーの形状は、据え置きタイプとハンディタイプがあります。
据え置きタイプの特徴
- 会社の事務所などに設置して使用する
メリット
- パソコンと連携させるとデータ管理がしやすい
- 管理者の前で測定することが多く、不正を防ぐことができる
デメリット
- 常に電源に繋いでおく必要がある
- 持ち運びができない
ハンディタイプの特徴
- 場所問わず使用できる
メリット
- 持ち運びがしやすく、自宅や車内など場所を問わず使用できる
デメリット
- 管理者の手元にないので、使用回数の管理がしにくい
- 製品によっては精度が低い可能性がある
②測定の精度で選ぶ
アルコールチェックを行う上で、測定の精度は非常に重要です。精度が高い製品は価格も上がる傾向にはありますが、コンプライアンス強化という観点でもできる限り精度の高いアルコールチェッカーを導入することをおすすめします。
アルコールチェッカーに使われているセンサーには「半導体式ガスセンサー」と「電気化学式(燃料電池式)センサー」の2種類があります。精度が高いのは「電気化学式センサー」です。電気化学式センサーはアルコール以外の成分には反応しないという特徴があります。精度の高さを重視する場合は、電気化学式センサーを選ぶようにしましょう。
なお、それぞれのセンサーの特徴やアルコールチェッカーの正しい使い方、点検・メンテナンス方法については以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
参考記事:アルコールチェッカーの使い方と3つの注意点|点検方法も解説!
③機能性で選ぶ
アルコールチェッカーには、アルコール濃度を測定するだけでなく、様々な便利な機能が搭載されたものがあります。
例えば、スマホのアプリと連携することで、アルコールチェッカーの測定値が自動でアプリ内に反映され、管理者が離れた場所にいてもその情報をリアルタイムで確認することができるものもあります。また、位置情報を記録できるものや、測定時に顔写真撮影を行って不正を防ぐものなど、多岐にわたります。
社内でのアルコールチェックの運用方法を想定した上で、管理者とドライバーの双方にとって使いやすいアルコールチェッカーを選ぶことが大切です。
アルコールチェック実施の8ステップ
実際にアルコールチェックを運用する際には、どのような流れになるのでしょうか。アルコールチェックの一般的な流れを8ステップでまとめると以下の通りです。
- 運転前に安全運転管理者が立ち合って検知器を用いたアルコールチェックを実施する
- ドライバーがアルコールチェックの結果を記録簿に記入する
- 運転する
- 運転後に安全運転管理者が立ち合って検知器を用いたアルコールチェックを実施する
- ドライバーがアルコールチェックの結果を記録簿に記入する
- ドライバーから安全運転管理者に記録簿を提出する
- 安全運転管理者が記録簿の内容をチェックし、未記入等があった場合は修正を依頼する
- 内容の確認が完了したら、記録簿を1年間保存する
- 運転前後のアルコールチェックには、原則として安全運転管理者が立ち合わなくてはならない(ステップ01、04)
- アルコールチェックの結果は記録簿に残し、1年間保存しなくてはならない(ステップ08)
これらは道路交通法施行規則で定められている内容なので、必ず守らなくてはなりません。
また、2023年12月1日から正式にアルコールチェッカーを用いたアルコールチェックの実施が義務化されたので、アルコールチェッカーをいつでも正確に測定できる状態に維持しておかなくてはなりません。
アルコールチェックで記録すべき8項目
- 確認者名
- 運転者名
- 運転者の業務に係る自動車登録番号又は識別できる記号、番号等
- 確認の日時
- 確認の方法
・アルコール検知器の使用を記載(2023年12月より使用が義務化)
・対面でない場合はビデオ通話などの具体的な確認方法を記載 - 酒気帯びの有無
- 指示事項
- その他必要な事項
Excel形式の記録簿を運用する際の記載例を以下に掲載していますので、参考にしてください。
この記録簿のひな形は、【無料】アルコールチェック記録簿のひな形5選|記入例や保存方法も紹介の記事にて無料でダウンロードできます。正しく実施するための3つのポイント
アルコールチェックを正しく実施するためには、適切なタイミングと方法で行う必要があります。ここからは、実施のポイントや留意すべき事項について解説します。
①業務目的で運転を行う人が対象
アルコールチェックを実施すべき対象者は、業務のために運転を行う人です。
たとえば、営業活動のために社用車を運転して顧客を訪問する場合や、自社商品を配送するためにトラックを運転する場合などに、ドライバーに対してアルコールチェックを実施します。
アルコールチェックの対象者については、以下の記事で解説しています。合わせてご覧ください。
参考記事: アルコールチェック義務化の対象者は?実施企業の条件や運用方法も解説
②運転前後の2回実施する
アルコールチェックを実施するタイミングは、運転前・運転後の計2回です。
運転前のチェックでは、運転者が酒気帯びでないことを確認し、運転後のチェックでは、運転業務中に飲酒がなかったことを確認するのが目的です。
なお、必ずしも運転の直前・直後である必要はなく、運転を含む業務の開始前や終了後、出勤時や退勤時でも問題ありません。
③安全運転管理者が対面で実施する
アルコールチェックは原則として安全運転管理者が対面で行わなくてはなりません。
アルコールチェッカーを用いて確認した場合であっても、原則として目視での確認を省略することはできません。
安全運転管理者が対応できない場合
アルコールチェックは原則として安全運転管理者が実施します。しかし、安全運転管理者の不在時や確認が困難な場合においては、「副安全運転管理者」やあらかじめ指定した「安全運転管理者の業務を補助する人」が代わりに実施しても問題ありません。
ただし、アルコールチェック時に酒気帯びが確認された場合等には、必ず安全運転管理者に速やかに報告し、必要な対応等について指示を受けるか、安全運転管理者自らが運転者に対して運行中止の指示等を行う必要があります。
また、代理でアルコールチェックを実施した場合であっても、その責任は安全運転管理者が負うことになります。
(参照:兵庫県警察公式サイト 「安全運転管理者の業務 アルコール検知義務化 Q&A」)
直行直帰など対面で実施できない場合
アルコールチェックは原則対面で実施することとされていますが、実際は直行直帰や出張等で対面での実施が難しい状況もあるかと思います。そのような場合は、「対面に準ずる適宜の方法」で実施すればよいとされています。
警察庁は対面に準ずる適宜の方法として、以下を具体例として挙げています。
- カメラ、モニター等によって、安全運転管理者が運転者の顔色、応答の声の調子等とともに、アルコール検知器による測定結果を確認する方法
- 携帯電話、業務無線その他の運転者と直接対話できる方法によって、安全運転管理者が運転者の応答の声の調子等を確認するとともに、アルコール検知器による測定結果を報告させる方法
なお、直行直帰時のアルコールチェックの実施方法については、以下の記事で詳しく解説しています。直行直帰であってもアルコールチェックは必ず行わなくてはならないので、合わせてご確認ください。
アルコールチェックを怠った場合の罰則
運転前後にアルコールチェックの実施や記録を忘れてしまうなど、アルコールチェック義務化への対応を怠ってしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか。
アルコールチェックを怠った結果、飲酒運転による交通事故を引き起こしてしまった場合は、運転者だけではなく会社の代表者や責任者も罰則の対象となります。
安全運転管理者の業務違反に該当する
アルコールチェックの実施と記録・保存は、安全運転管理者の業務内容として道路交通法施行規則で定められています。そのため、アルコールチェックを怠った場合は、安全運転管理者の業務違反となります。
しかしながら、今のところアルコールチェックを怠ったことに対する直接的な罰則は設けられていません。
ただし、安全運転管理者の業務違反が著しく、安全運転の確保に問題があると判断された場合は、公安委員会から是正措置命令や安全運転管理者の解任命令がくだることがあります。これに従わない場合は、命令違反に対する罰則が科される可能性があります。
違反種別 | 内容 | 罰則 |
---|---|---|
是正措置命令違反 |
解任命令に従わず選任の状態を継続したり、解任命令に反して再び選任したりすると罰則が科される |
50万円以下の罰金 |
解任命令違反 |
是正措置命令に従わず改善措置を怠ったり、要求事項に沿わなかったりすると罰則が科される |
50万円以下の罰金 |
安全運転管理者に関する罰則はこのほかにも2つあり、以下の記事で詳しく解説しています。合わせてご確認ください。
飲酒運転に対する罰則
直接的な罰則がないとはいえ、アルコールチェックを怠ると、従業員の飲酒運転を見逃してしまう可能性があります。従業員が飲酒運転をしてしまった場合には厳しい罰則が設けられています。
飲酒運転には「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」の二種類があります。どちらに該当するかで罰則の内容がことなるので、まずはそれぞれの違いをお伝えします。
酒酔い運転
「酒酔い運転」とは、名前のとおりお酒を飲んで酔っぱらっている状態で運転することを意味しています。酒酔い運転の場合は、呼気中のアルコール濃度に関係なく運転者の状態で判断されます。
つまり、アルコールチェッカーの測定値に関わらず、
・まっすぐ歩くことができない
・明らかに呂律が回っていない
・質問に対する受け答えがまともにできない
などの状態にある場合は「酒酔い運転」と判断されます。
酒気帯び運転
一方、「酒気帯び運転」とは、アルコールチェッカーを用いて呼気中のアルコール濃度を測定した際の測定結果から判断されます。
「酒気帯び運転」の罰則対象となる基準値は、
呼気の場合: 0.15 mg/L
血液の場合: 0.3 mg/mL
と定められています。
「酒酔い運転」や「酒気帯び運転」が発覚した場合、運転者には以下の罰則が科されます。
運転者
- 酒酔い運転の場合:5年以下の懲役 または 100万円以下の罰金
- 酒気帯び運転の場合:3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金
また、罰則の対象になるのは運転者本人だけではありません。酒類を提供した人や一緒に車に乗っていた人も、罰則の対象になります。
具体的には、以下のような罰則が科されます。
酒類の提供者・車両の同乗者
- 酒酔い運転の場合:3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金
- 酒気帯び運転の場合:2年以下の懲役 または 30万円以下の罰金
会社の代表者や責任者も罰則の対象になる
アルコールチェックを怠った結果、従業員が酒酔い運転や酒気帯び運転を行った場合や、それらによって事故を起こした場合、従業員本人が罰せられるのはもちろん、車両の提供者である会社の代表者や責任者も従業員と同等の罰則を科されます。
車両の提供者
- 酒酔い運転の場合:5年以下の懲役 または 100万円以下の罰金
- 酒気帯び運転の場合:3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金
このため、企業には従業員を雇用する立場としてアルコールチェックの徹底や安全教育の実施等、飲酒運転防止に努める責任があります。
また、従業員が飲酒運転や酒気帯び運転によって事故を起こした場合は、罰則を科されるだけでなく、企業としての社会的信用を失うことにも繋がるので、企業としてしっかり対策を行うことが重要です。
アルコールチェック義務化は、飲酒運転を防止するための一環として位置づけられています。
運転者や安全運転管理者がアルコールチェック義務を遵守することで、酒酔い運転や酒気帯び運転のリスクを回避し、交通安全の確保に努めましょう。
アルコールチェック7つのFAQ
ここまで、アルコールチェックの具体的な実施方法やポイント、怠った場合の罰則について解説してきました。
しかし、実際にアルコールチェックの運用を開始してみると、「こういうケースではどうするのが正解なのか?」と疑問や判断に迷うこともあるかと思います。
ここでは、安全運転管理者がアルコールチェックを実施する中でよくある質問を7つ取り上げ、回答していきます。
Q1. アルコールチェッカーを使用していても対面確認は必要?
アルコールチェッカーを使用してアルコールチェックを実施した場合でも、安全運転管理者等による対面確認は必要です。また、車両管理システム等でアルコールチェック記録をしている場合や、アルコールが検出された場合にエンジンがかからないようにするシステム等を使用している場合も省略することはできません。
万が一アルコールが検出された際に、迅速かつ適切に対応し、飲酒運転防止を徹底するためにも、必ず目視等による確認を実施してください。確認者は、アルコールチェッカーの数値に頼り過ぎず、ドライバーの顔色や声の調子なども必ず確認するようにしましょう。
Q2. 安全運転管理者の業務を補助する人に資格は必要?
特に資格は必要ありませんが、安全運転管理者の業務内容やその目的を理解している人がふさわしいでしょう。補助者が立ち会った際にドライバーからアルコールが検出された場合には、補助者ではなく安全運転管理者自身が措置を講じることが求められるため、速やかに報告できる体制の構築が重要です。
Q3.早朝深夜や休日出勤で安全運転管理者等による確認が困難な場合はどうすればよい?
警察庁は、アルコールチェックの確認者について業務委託であっても差し支えないと回答しています。もちろん、Q2と同様にアルコール検出時には安全運転管理者が直接対応する必要がありますが、確認業務だけであれば、24時間365日対応している代行サービスなどを利用することも選択肢の一つです。
Q4. アルコールが検出された時はどうすればよい?
運転前の確認でアルコールが検出された場合は、当然ながら運転させることはできません。車を使わずに通勤していた場合は問題ありませんが、車を運転して通勤していた場合は、飲酒運転となるため最寄りの警察署等に通報しなければなりません。
また、運転後の確認で判明した場合は、運転中に飲酒したということになるため、同じく警察署等に通報してください。その際、対応した内容について正確に記録しておきましょう。
Q5. レンタカーでもアルコールチェックは実施しなければならない?
レンタカーであっても、業務上で車を運転する場合はアルコールチェックの対象となります。記録しなければならない項目や保存期間も、事業所で所有している車と同様の扱いとなるため、ナンバー等を確実に記録するようにしましょう。
Q6. マイカー通勤する場合もアルコールチェックは実施しなければならない?
通勤のみの場合はアルコールチェックの対象外となります。ただし、マイカーで通勤し、日中に業務のために当該車両を運転する場合は、運転前後にアルコールチェックを実施しなければなりません。
また、マイカー通勤中に従業員が交通事故を起こした場合、企業には使用者責任を問われる可能性があります。したがって、法律上でアルコールチェックが義務付けられていなくても、飲酒運転防止や安全運転推進の取り組みは必要です。
Q7. アルコールチェックの記録は役所や警察に提出しなければならない?
現時点でアルコールチェックの記録を提出することは義務付けられていません。ただし、業務において交通事故を起こしてしまった場合に記録の提出を求められる可能性があるため、法律で定められているとおり、1年間は必ず保存するようにしましょう。
徹底・効率化のために「車両管理システム」が注目されている
飲酒運転による悲惨な事故を防ぐため、また企業としてのコンプライアンスを確保するために、アルコールチェックは法令に沿って必ず行わなければなりません。
しかし、安全運転管理者には他にも安全運転確保に関する様々な業務が与えられており、アルコールチェックを徹底しようとするほどに業務負担が大きくなってしまうのも事実です。
そこで、アルコールチェックを徹底し、かつ効率化する方法としておすすめなのが、「車両管理システム」の活用です。
車両管理システムとは
車両管理システムとは、社用車やリース車などの車両を効率よく管理することができるシステムのことです。
具体的には、アルコールチェック義務化の対応をまるごと行うことができるシステム、1台の車を複数人で使う場合の予約管理ができるシステム、運転日報や日常点検などの書類をデータで管理できるシステム、走行距離を計測して最適なルートを教えてくれるシステムなどがあります。
2017年の中型トラックに対するタコグラフ搭載義務化をきっかけに車両管理システムの需要が一気に高まり、2016年から2022年の間で、導入した車両台数は約3.7倍になりました。
なお、車両管理システムの機能やメリットについては以下の記事で詳しく解説しています。各社が提供する車両管理システムの機能や特徴もまとめて比較することができますので、ぜひ参考にしてください。
車両管理システムを導入するメリット
車両管理システムを導入する大きなメリットは、管理工数の削減とアルコールチェックの徹底です。
安全運転管理者の業務はアルコールチェックだけでなく、運行計画の策定や日報類の管理など多岐に渡ります。車両台数が多い場合や管理者の人数が少ない場合などは、特に多くの時間が必要になります。
車両管理システムを用いると、アルコールチェックの記録はもちろん、運転日報や日常点検の記録も合わせてペーパーレス化することで、記録の作成や確認、保存に関する工数を削減できます。
また、アルコールチェッカーとシステムを連携させて、アルコールチェックの測定数値を自動で取り込み、改ざんを防止する機能や、測定時に顔写真を撮影することでなりすましを防止する機能を搭載したシステムもあります。
車両管理システムを導入することで、コンプライアンスの観点でも重要なアルコールチェックの徹底を実現することができます。
アルコールチェック義務化により業務量が増えた中でも、効率的に法令遵守の徹底を行うことのできている企業様の事例を『アルコールチェック義務化の対応成功事例6選』にてご紹介しています。ぜひご覧ください。
車両管理システムを用いたアルコールチェックの運用例
車両管理システムを用いてアルコールチェックを実施する場合の流れを、弊社の提供する車両管理システム「Bqey(ビーキー)」を具体例として用いて説明します。
1.安全運転管理者の立ち合いのもと、運転前のアルコールチェックを行います。測定数値など一部の情報は自動入力されるため、その他必要な情報をドライバーがBqeyのアプリに入力します。
2.運転後も同様にアルコールチェックを行い、そのままアプリから提出します。
3.提出された記録はすぐにシステムに反映され、安全運転管理者はリアルタイムで記録を確認することができます。データは自動で3年間システムに保存されます。
未提出や未記入があった場合には、ドライバーに自動で通知が届くので、管理者のチェックの手間を大幅に省きます。概算にはなりますが、社用車を5~6台と仮定した場合は、アルコールチェック記録のとりまとめにかかる時間が30分から5分程度に、改修した書類の確認・保管にかかる時間が20分から5分程度に削減が見込まれます。
このように、車両管理システムを活用すると、安全運転管理者だけではなくドライバーにとっても業務負担を軽減することができます。
また、アルコールチェックだけでなく、システム上で車両の予約管理をしたり、運転日報や日常点検等の書類をデータで一元管理したりすることができるなど、車両管理システムには様々な機能があります。
自社に合ったシステムを選定するポイントについて知りたい方は、『車両管理システムの選び方』をダウンロードしてみてください。自社の抱える課題を整理するためのチェックシートも掲載しているのでぜひ活用してください。
まとめ
今回は、アルコールチェック義務化によって安全運転管理者の業務がどのように変化するのかについて解説しました。
アルコールチェック義務化により、安全運転管理者の業務として「アルコールチェックの実施」と「アルコールチェックの記録・保存」が追加されました。
飲酒運転による交通事故を防止するため、また企業としてのコンプライアンスを確保するために、アルコールチェックは確実に行わなければなりません。しかし、アルコールチェックを徹底しようとすると安全運転管理者の業務負担が増加してしまいます。
こうした課題を解決するには「車両管理システム」の活用がおすすめです。アルコールチェックの実施や記録の抜け漏れを防止したり、他の業務と合わせてペーパーレス化することで安全運転管理者やドライバーの業務負担を軽減したりできるため、アルコールチェックの徹底・効率化をかなえます。
ただし、車両管理システムには様々な機能が搭載されているため、自社の課題を整理し、必要な機能を選定することが重要です。
車両管理システムを上手に活用して、アルコールチェックを確実に実施し、飲酒運転の防止に努めましょう。
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