企業が取り組むべき「安全運転教育」とは?事故防止に役立つツールも紹介
企業にとって交通事故は、従業員の安全を脅かすだけでなく、経済的損失や社会的信用の喪失につながる重大なリスクです。
本記事では、安全運転教育の重要性とメリットを踏まえて、取り上げるべき3つのテーマや具体的な教育内容などについて解説します。また、安全運転を支援するツールも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
交通事故防止の要である
安全運転管理者を選任できていますか?
一定台数以上の社用車を使用する企業は、「安全運転管理者」の選任が義務付けられています。
安全運転管理者の選任、届出方法や業務内容、違反した場合の罰則についてわかりやすく解説した資料をご用意しました。
【資料でわかること】
- 道路交通法改正の概要
- 安全運転管理者とは
- 選任義務と罰則
- 9つの業務内容
押さえるべきポイントをわかりやすく解説していますので、ぜひ資料をご覧ください。
安全運転教育とは
企業における「安全運転教育」とは、従業員が安全運転を確保するために必要な知識や技能、心構えを学ぶ取り組みです。安全運転教育の重要性としては、以下の点が挙げられます。
安全運転管理者の義務
道路交通法では、一定台数以上の自家用自動車を使用する企業に対して、安全運転管理者や副安全運転管理者の選任を義務付けています。
これらの管理者には、従業員に対して「交通安全教育指針」に基づいた教育を実施し、日々の乗務で安全運転を遵守させることが義務付けられています。
第七十四条の三
自動車の使用者(道路運送法の規定による自動車運送事業者(貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)の規定による貨物軽自動車運送事業を経営する者を除く。以下同じ。)、貨物利用運送事業法の規定による第二種貨物利用運送事業を経営する者及び道路運送法第七十九条の規定による登録を受けた者を除く。以下この条において同じ。)は、内閣府令で定める台数以上の自動車の使用の本拠ごとに、年齢、自動車の運転の管理の経験その他について内閣府令で定める要件を備える者のうちから、次項の業務を行う者として、安全運転管理者を選任しなければならない。
2 安全運転管理者は、自動車の安全な運転を確保するために必要な当該使用者の業務に従事する運転者に対して行う交通安全教育その他自動車の安全な運転に必要な業務(自動車の装置の整備に関する業務を除く。第七十五条の二の二第一項において同じ。)で内閣府令で定めるものを行わなければならない。
3 前項の交通安全教育は、第百八条の二十八第一項の交通安全教育指針に従つて行わなければならない。
つまり、従業員に安全運転教育を実施することは、安全運転管理者、ひいては企業に課せられた法的な義務であり、コンプライアンスの観点からも欠かせないものなのです。
安全運転教育の重要性
法律上の義務であるかどうかに関わらず、そもそも安全運転教育は企業にとって大きな意義を持っています。安全運転教育を怠った結果、重大な交通事故が発生すると、従業員本人はもちろん、事故に巻き込まれた第三者に対しても大きな被害を与えることになりかねません。
企業は貴重な人材を失うと同時に、被害者に対する損害賠償や慰謝料、車両の修繕費、訴訟費用など、多大な経済的損失を被るおそれがあります。
また、事故対応に時間や労力を要することで、通常業務の停滞や営業機会の損失などが生じることも考えられます。さらには、従業員の交通事故や危険運転が世間に知られることで、その企業は「従業員教育が不十分な企業」とみなされ、顧客や取引先からの信頼を失うことにもつながります。
このように、従業員が交通事故を起こすと、企業全体に多大なダメージを被ることが想定されます。そのため、企業が安全運転教育を実施することは、リスクマネジメントとしても非常に重要です。
安全運転教育を行うメリット
企業は安全運転教育を行うことで、先ほど述べたリスクに対処でき、以下のメリットを得られると言えます。
交通事故防止
安全運転教育の大きなメリットは、交通事故そのものを未然に防止できる点にあります。教育を通じて、潜在的な危険への察知能力や咄嗟の判断力・対応力が育成され、危険な状況を回避することができるようになります。
定期的かつ継続的に行うことで、企業全体に安全運転の文化が醸成され、長期的な交通事故の削減につながるでしょう。
コスト削減
安全運転教育を実施し、交通事故の発生件数を削減できれば、車両の修繕費や損害賠償、慰謝料などの不要なコストも削減することができます。また、自動車保険の料金引き下げや割引といったメリットにもつながります。
また、事故の規模が大きいほど、企業は事故調査委員会の発足や再発防止策の策定、保険会社との手続きなどに、多大な時間と労力を割いて対応しなければなりません。交通事故のリスクを軽減することは、このような予期せぬ経済的損害から自社を守るために非常に重要です。
企業の信頼性確保
安全運転教育を積極的に行うことは、自社の社会的信用を高めるためにも役立ちます。昨今の社会は、企業が社会的責任(CSR)を果たすことを強く求めています。
そのため、交通安全に積極的に取り組む姿勢を内外に強く示すことで、企業のブランドイメージ向上が可能です。交通事故防止に努めることは、従業員や取引先、ひいては社会全体に対して、「人命や交通法規を大切にする企業」というメッセージを強く発信することになります。
安全運転教育で取り上げるべき3つのテーマ
安全運転教育を実施する際、どのようなテーマを取り上げるべきか悩む方も多いと思います。その場合は、国家公安委員会が作成した「交通安全教育指針」に基づいてテーマを設定するのがよいでしょう。
この指針に従って教育を実施することで、安全運転管理者としての義務を果たすことにもつながります。
具体的には、以下の3つの内容を網羅した教育を行うことをおすすめします。
①安全運転に必要な技能・知識
荷物の運送や営業活動などの目的で自動車を運転する「業務用自動車運転者」は、多忙なスケジュールや長時間の運転を伴うことが多く、集中力の欠如や時間的制約による焦りが生じやすい状況にあります。このことから、一般の運転者よりも高度な運転能力が必要とされます。
そのため、基本的な運転姿勢や装置の操作方法に加えて、業務用自動車を安全に運転するために必要な技能と知識をしっかりと身につけることが不可欠です。
具体的には、運転計画を作成し、それに従うことで過労や居眠り運転を防ぐ方法や、異常気象時の対応方法などの重要性を理解し、実践するための訓練が必要です。
また、安全運転管理者が適切な運行計画を立て、運転者に必要な指示を出せるようにするためにも、運転者自身が自らの健康状態や車両の状態を把握し、適切に報告することが重要であると理解させる必要があります。
②交通事故防止に関する知識
交通事故を未然に防ぐためには、業務用自動車の運転特性を十分に理解し、事故のリスクを予測し回避する能力が必要です。
例えば、大型貨物自動車では死角や内輪差をしっかりと把握し、正しい積み方を学ぶことが重要です。
また、過積載の危険性を理解し、ブレーキの効き具合や車両の安定性にどのような影響があるかを認識することで、安全運転を維持します。
人員運送を目的とする場合は、急発進・急ブレーキを避け乗車している人の安全確保に留意することや、乗降時の配慮、地理への精通などが必要です。
その他必要な事項
企業ごとに異なる業務用自動車の用途や目的に応じて、適切な教育を行うことも重要です。また、運転者の年齢、運転経歴、運転特性を把握した上で、効果的な安全運転教育を実施しましょう。その際は、ドライブレコーダーの記録映像や、運転適性検査の結果などを活用するとよいでしょう。
交通法規に関する最新の法令情報を、常に共有することも重要です。安全運転を徹底するためには、運転者が基本的な交通ルールや安全運転義務などに関する知識を十分に習得している必要があります。
2022年の道路交通法改正では、安全運転管理者の業務内容に、運転者に対するアルコールチェックの実施および記録保存が追加されました。これらに適切に対応するためにも、法令情報の共有が重要なのです。
参考:交通安全教育指針(国家公安員会告示第十五号) (npa.go.jp)
安全運転教育を通じて、これらの重要なポイントを身につけることにより、業務用自動車運転者はより安全で模範的な運転を実践できるようになります。
安全運転教育の4つのカテゴリー
安全運転教育は、社内で実施することもできますが、自動車学校(教習所)やJAF(日本自動車連盟)、民間の研修センターなどでも受けることが可能です。安全運転教育では、一般的に受講者を以下の4つのカテゴリーに分類します。
新入社員研修
新入社員研修は、新たに運転業務に従事する社員を対象に実施される研修です。新入社員は、運転の技能や経験、危険察知能力がまだ十分ではないことが多いため、安全運転に必要な基礎的な技術や知識の習得に重点が置かれます。
また、運転適性検査を通じて個々の性格や特性に基づく運転傾向を調査し、その分析結果に基づいた具体的な指導も行います。
さらに、乗務中に車両を運転する上で求められる責任感の育成も、新入社員研修の重要なテーマです。従業員が交通事故や危険運転を起こすと、その影響は企業全体に及ぶため、研修では強い自覚と責任感を持って運転業務に取り組むことを啓発します。
一般社員研修
一般社員研修は、すでに運転業務に従事している従業員を対象に実施される研修です。この研修では、自分の運転技能や態度を見直し、改善することや、従業員間の運転技能や安全運転意識のばらつきを是正することが重視されます。
具体的な研修内容としては、運転適性検査を通じた運転傾向の分析や、座学研修による安全運転の基本知識の再確認が挙げられます。
また、悪天候時や悪路での運転など、特定の状況に対応した実技研修が行われることも多いです。高い安全運転意識を維持するためには、定期的に一般社員研修を実施することが不可欠です。
事故惹起者研修
事故惹起者研修は、過去に交通事故や交通違反を起こした従業員を対象に実施される研修です。事故や違反の原因を分析し、再発防止を図ることが主な目的ですが、原因は必ずしも運転技能の未熟さに限りません。
むしろ、運転時の癖や安全運転への意識に問題があるケースが多く見受けられます。
そのため、この研修では、運転適性検査やカウンセリング、座学、実技を通じて、まず従業員が事故を起こした原因を明らかにします。
その上で、従業員に不足している意識や知識、技能、あるいは悪い運転習慣に焦点を当て、再発防止に向けた具体的な指導を行います。
運転管理者研修
運転管理者研修は、従業員の状況把握や安全運転の指導、社用車の管理などを担当する運転管理者を対象に実施される高度な研修です。
この研修では、運転管理者に求められる知識、指導方法、安全管理の手法について学びます。
研修内容は他の安全運転教育とは異なり、より専門的かつ実践的なものが多く含まれています。例えば、社用車の運行管理に関する実務や関連法令の理解、安全確保に必要な管理手法などが挙げられます。
また、企業によっては、安全運転遵守に必要な組織体制の構築方法や、効果的な安全運転指導法がカリキュラムに含まれることもあります。
なお、道路交通法により、安全運転管理者は毎年一度、法定講習を受講する義務があります。
安全運転教育の具体例
ここでは、実際に行われている安全運転教育の具体例を紹介します。自社で実施する際の参考にしてください。
教本・DVDを用いた教育
教本やDVDは、基本的な交通ルールや安全運転の理論を学ぶのに適しています。地域の交通安全協会などで教材を貸し出すことも多く、手軽に利用できます。
例えば、危険予測トレーニング(KYT)のDVDを使用し、実際の交通状況を疑似体験しながら潜在的な危険を予測する能力を養うことができます。
シミュレーターを用いた教育
最新の運転シミュレーターを活用することで、実際の運転に近い環境で安全に学習できます。市街地や高速道路など、様々な交通状況を再現し、危険な場面での対応を繰り返し練習することが可能です。これにより、実際の道路に出る前に、適切な判断力と対応方法を身につけることができます。
運転シミュレーターは市販されているほか、レンタルやリースなどのサービスも利用可能です。
実車による運転教育
実車を使用した教育は自動車学校などで受講可能です。企業のニーズに合わせてカスタマイズが可能で、実践的なスキルを磨くのに最適です。
例えば、駐車時に事故が発生しやすい場合は、教習所内のコースで駐車に特化したカリキュラムを組むことも可能です。
プロの指導員が同乗し、実際の交通環境の中で安全運転のコツを直接指導します。急ブレーキや急ハンドルなどの緊急時の操作も、安全な環境で体験することができます。
e-ラーニング
インターネットを活用したe-ラーニングシステムは、時間や場所を選ばず学習できる利点があります。
動画やクイズ形式のコンテンツを通じて、交通法規や安全運転の知識を効率的に学べます。また、学習進捗の管理や理解度のチェックが容易であり、企業の社員教育などにも広く活用されています。
これらの教育方法を組み合わせることで、より効果的な安全運転教育を実現できます。ドライバーの経験レベルや目的に応じて、適切な教育プログラムを選択することが重要です。
企業の安全運転の取り組み事例については、以下の記事でも詳しく紹介しています。合わせてご覧ください。
安全運転支援ツールの導入もおすすめ
安全運転を促進するためには、教育と合わせて安全運転支援ツールを導入するのもおすすめです。
特に、ドライブレコーダーや車両管理システムの導入は非常に有効です。
ここからは、ドライブレコーダーと車両管理システムの特長を踏まえ、それぞれがどのような企業に適しているかを解説します。
ドライブレコーダーの特長
安全運転支援機能付きのドライブレコーダーは、コストを抑えつつ安全運転を徹底したい企業におすすめです。
ドライブレコーダーは基本的に機器本体の費用と設置費用を支払うだけで済みます。それでいて、安全運転支援機能付きのドライブレコーダーは、危険運転を検知するとアラートを鳴らしてくれるなど、交通事故を防ぐために大きく効果を発揮します。
車両管理システムの特長
車両管理システムは、ドライブレコーダー以外のデバイスやスマホアプリなどに対応したものもあるため、すでにドライブレコーダーを導入していて、さらに安全運転を強化したい企業におすすめです。
また、安全運転支援に加え、アルコールチェックの効率化、運行ルートの最適化、日報作成、車両の位置情報管理など、多岐にわたる機能を備えているため、包括的な車両管理を目指す企業におすすめです。
まとめ
企業にとって安全運転教育の実施は極めて重要です。効果的な教育は交通事故防止、コスト削減、企業信頼性の向上につながります。教育内容には、安全運転に必要な技能・知識、交通事故防止の知識、そして各企業の特性に応じた事項の3つのテーマを含めるのがおすすめです。
具体的には、教本やDVDを用いた教育、シミュレーターを用いた教育、実車による運転教育、e-ラーニングなどを活用して行われることが多いです。
安全運転を促進するためには、これらの教育と合わせてドライブレコーダーや車両管理システムなどの安全運転支援ツールを導入するとより効果的です。
継続的かつ体系的な安全運転教育を実施し、交通事故防止に努めましょう。
飲酒運転のリスクを抑える!
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